コトラー『マーケティング5.0』まとめ 第4回 マーケティング5.0を構成する5つの要素 共著者が解説

インタビュー

『コトラーのマーケティング5.0』(日本語版)が2022年4月に発売されました。
トランスコスモスでは、本書の共著者であるイワン・セティアワン氏のWebセミナーを2020年12月に開催し大変ご好評いただきました。『マーケティング5.0』の内容について、共著者本人に語っていただいた内容を記事にまとめています。

本記事では最終回「マーケティング5.0を構成する5つの要素」を紹介いたします。

マーケティング5.0を構成する5つの要素

マーケティング5.0は5つの要素で構成されます。ブルーで示された2つの要素を「2つの規律」と呼んでおり、3つの白で示された要素は「3つのアプリケーション」と呼んでいます。

  • データドリブンマーケティング
  • プレディクティブマーケティング
  • コンテクスチュアルマーケティング
  • 拡張マーケティング
  • アジャイルマーケティング

それぞれを簡単に見ていきましょう。これらの要素を知っておくことは『マーケティング5.0』を理解しかつ実践するために重要であり、進め方や内容を理解しておくことで、より今後の顧客体験の増幅に役立つはずです。

データドリブンマーケティング

1つ目はデータドリブンマーケティングです。決定を下すために、どのようにデータを使うのか、また決断を助けるためにいかにしてデータを集めるのかということです。

データドリブンマーケティングは、まず、目標を定義することからはじまります。何を達成したいのか、どのような課題を解決したいのか、そしてこれらの目標達成のためにどのような分析を行うのか、そしてそれを達成し、答えを見つけるためのデータを探します。

ビッグデータの拡大により、多くのデータソースを取ることが出来ます。大きくは6つのカテゴリに分かれ、これらすべてのデータカテゴリからデータを得てビジネスにおける問題解決や目標達成を目指します。たとえば、SNSの会話から取られる①ソーシャルデータと呼ばれるものがあります。テレビや新聞雑誌など従来のメディアからの②メディアデータもあります。インターネット上のやり取りやブラウジング履歴から取られる③ウェブデータもあり、④POSデータもあります。これは、小売店で行われる取引に関するものです。⑤IoTデータは、スマホの使用や小売りでのセンサーの使用から取られるデータです。⑥エンゲージメントデータは、たとえばコールセンターや顧客サービスで使われるSNSのアカウントから取られます。

プレディクティブマーケティング

2つ目は予測可能なマーケティングです。予測モデルや予測アナリティクスを用いてマーケティング戦略の結果をどのように予測するのかが重要です。過去の記録、過去のマーケティングアクション、過去の業務成績などを基に作ったデータを用意し、機械学習をさせることで将来の予測や企業業績結果を予測していきます。

たとえば、米国のターゲットという名のスーパーマーケットでは、ゲストIDからデモグラフィックデータ、行動データまで、ターゲットでの買い物客のデータを収集し予測や洞察を得ています。ビッグデータから妊娠時の女性の購買行動のパターンを見ることで、どの女性が実際に妊娠しているかを予測できます。ターゲットでは妊娠予測スコアと呼ばれるものを開発し、女性買い物客が妊娠しているのかどうかや出産予定日を予測しており、顧客にあったサービスを提供する基盤となっています。

コンテクスチュアルマーケティング

3つ目はコンテクスチュアルマーケティングです。顧客が誰なのかを理解すること、顧客を定量的に理解するのではなく、定性的な理解に基づき、どうしてそのようなフェーズにいるのか、どうして購入決定をするのかといった、コンテクストを理解することで、サービスの提供をいかにパーソナライズするかということです。

顧客とのやり取りからコンテクストを理解し、顧客の感情や状況をAI、機械学習によるアルゴリズムに基づきパーソナライズされた反応を提供することが可能となっています。1人ひとりの顧客に合わせた正しいメッセージ、商品、販売促進、メディア媒体、体験を提供することが可能です。

たとえば、健康保険会社のHumanaは、音声分析機能を使い顧客からかかってくる電話の分析を行っています。顧客の感情を理解し、電話をしてきた人にふさわしい対応をするよう、コールセンターのスタッフにリアルタイムで対応の仕方を提案するのです。例をあげると、電話をしてきた人が苛立っていたり、怒っているようなときにはAIがコールセンターのスタッフに警告を出したり、ソフトな口調で対応するよう促すのです。

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拡張マーケティング

4つ目は拡張マーケティングです。最前線のスタッフをデジタルテクノロジーで強化することにより、どのように人と人の接点を強化するのかを探っていきます。特定の業界・部門においては、完全にオートメーション化をするのは不可能でしょう。こういった業界・部門ではときには人が介入することが必要です。

消費者金融、小売、短距離輸送、携帯電話会社などは、対人対応(ヒューマンエクスペリエンス)が取引を促進します。また人が対応することにより信用ギャップを埋めることにもなります。人的な接触がなければ人は商品を信用しませんから、人が商品の説明をしてその商品を使うよう説得する必要があります。このように対人対応が必要な業種は、保険、不動産売買、自動車、卸売業などがあります。対人対応は商品自体を強化することもあります。たとえば、おもてなし産業、ホテル、ヘルスケア、教育、コンサルタントや弁護士などのプロフェッショナルサービスが該当します。これらの業界では上図の右に行くほど拡張された対人対応が求められます。つまり対人対応が業務の中核であり、デジタルテクノロジーを用いて対人対応の能力を拡張するのです。一方、左に行くほど、フルオートメーションになっていきます。この領域は人的介入は限定的になります。

確度の低い見込客、確度の高い見込客をフィルターするために機械を使うことができます。確度の高い見込客が見つかれば、最終的には人が対応して契約につなげます。つまりチャットボットなどの自動化されたセールスインターフェースである機械と、実際に人が関わるセールスインターフェースの融合により、効率よく成果を上げることができるようになるのです。

アジャイルマーケティング

最後はアジャイルマーケティングです。マーケティングオペレーションを運営する際に、いかに迅速に実行できるかが重要になっています。

アジャイルマーケティングでは迅速さが求められますが、迅速に実行するにはすばやくマーケットを理解し、販促活動を検証するための①リアルタイムのアナリティクスが必要となります。異なる作業工程で小規模な任務を担う②分散型のチームも求められるでしょう。また自動車の開発プラットフォームと同じような③フレキシブルなプロダクトプラットフォームも必要です。プラットフォームを元に変更要素を加えまったく新しい製品を生み出すのです。そして逐次処理を行うのではなく並行するプロセス、④同時プロセスで行う必要があります。逐次プロセスは、前のプロセスが終了しないと次のプロセスへ進めないため、ときに大きな遅延を生み出します。同時プロセスなら同時に問題を解決し迅速にプロセスが進みます。また⑤迅速な実験も必要です。マーケットで商品を迅速に短期間でテストします。1〜2週間で製品をテストし、マーケットで受け入れられるかをリアルタイムで確認していきます。

改善案や新規事業、新規製品のアイデアは企業内部からだけでなく⑥外部の情報源(オープンイノベーション)からも得られるでしょう。自社が抱えている問題について社外の人の意見を聞いたり、解決法を求め社外の専門家に相談することも一案です。

マーケティング4.0の世界にテクノロジーの進化が加わったマーケティング5.0の世界の概要を把握いただけたでしょうか。技術革新が進み、さらなる顧客体験の増幅が可能となった5Aカスタマーパス、『マーケティング5.0ヒューマニティのためのテクノロジー』ではより詳細に解説していきますので、日本語版の書籍発刊を楽しみにしていてください。

イワン・セティアワン氏
Markplus CEO

ノースウェスタン大学の経営大学院であるケロッグ経営学院にてMBAを取得。卒業後15年間、100社以上にマーケティング戦略策定を経験。インドネシアのMarkplus社 CEOとして、フィリップ・コトラーおよびMarkplus社 会長であるヘルマワン・カルタジャヤ氏と共に、『コトラーのマーケティング3.0』 と『コトラーのマーケティング 4.0』を共著し、その著書は現在27ヵ国23の言語に翻訳されている。2021年2月に最新書かつ最終書『マーケティング5.0』が発売。日本語版は2022年4月に発売された。

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