メタバースの今後の展望と理想的な企業活動:バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第4回(4回シリーズ)

インタビュー

トランスコスモスの福島が、最新のマーケティング事情についてゲストを招いて語らう対談。
今回は、メタバース文化エバンジェリストであるバーチャル美少女ねむ氏にお話を伺います。バーチャル美少女ねむ氏は作家としても活動されており、2023年2月にはメタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界が「ITエンジニア本大賞2023」のビジネス書部門で大賞を受賞されました。
対談ではメタバースにおけるロイヤルティマーケティングやCXをテーマに、メタバースの現状や仮想現実における企業の在り方などについて語っていただきました。また今回はファシリテーターとして、当サービスのイメージキャラクター、「護永こすも」も参加し、非常に先進的なインタビューとなりました。
最終回は「メタバースの今後の展望と理想的な企業活動」です。

メタバースにおける今後の展望理想的な企業活動とは

護永こすも(以降、こすも):メタバースがより一般的になるためには、現状の高額なVRデバイスの問題など様々なハードルがあるかと思いますが、企業はどのようにして、メタバース内で定着していくことができるのでしょうか。

福島常浩(以降、福島)企業人として、メタバースにどのような姿勢で向き合うのかという点は大きな課題かと思います。すぐに人員を割いて参入したほうがいいのか、距離を置いて静観していてもいいのか。その点を示唆していただければと思います。Meta社がいうように100兆円規模の経済になるという見方もありますが、そうなってくると一般的な企業としては見過ごせない機会になると思います。

バーチャル美少女ねむ(以降、ねむ)前提として、Meta社の見解はユーザーというより株主に対して発信している側面が強いです。私はMeta社のメタバースに対する貢献は非常に大きなものだと考えていて、コロナ禍などの世界情勢を通して、直近の2、3年でメタバースの住人は3倍~5倍に増えたのではないかと試算しています。これにはマーク・ザッカーバーグの功績が非常に大きいです。Meta社が販売している「Meta Quest 2」というVRゴーグルがありますが、それまでの常識では考えられないほど高性能なものを非常に安価(当時37,180円) で売り出したわけです。
VRゴーグルを生活必需品だと思っていない人にとっては、3万円払うということには抵抗があるかもしれませんが、構成する部品の性能から考えると当時の最先端のスマートフォンと同じようなスペックです。最先端のスマートフォンは20万円以上するものもありますから、それと比較すると、この製品がいかに安いのかということがわかるかと思います。売れば売るほど赤字になっても不思議ではない価格設定です。
なぜマーク・ザッカーバーグがそこまでしてVRゴーグルを売りたがっているのかというと、新たな市場を作りたいからに他なりません。市場がないなら作ってしまおうという発想です。Meta社はそれができる企業規模があるので、大出血をしてそれを実行したということです。ただ大出血しているからには、株主に対する説明責任があり「100兆円規模の~」という説明になっているということも我々は理解したうえで、議論を進めるべきです。
マーク・ザッカーバーグの意見に共感するところとしては、いずれメタバースの経済は大きく発展することは間違いないと考えています。
日々VRで生活している実感としても、ビジネス的なコミュニケーションに関しては、現実世界で行うよりもメタバース上で行う方が、どう考えても効率が良いです。私は、いずれ現実世界の経済規模をメタバースの経済が上回ると思っています。
ただ、一般的な企業が今すぐそこに参加すべきかというと難しいところではあります。問題は、その時代がいつ来るのかということです。少なくとも100年後には必ずそういった世界になっていると断言できますが、どのタイミングでその世界にシフトするのかというのは誰にもわかりません。
例えば、1970年~80年代に初期の携帯電話はショルダーフォンと呼ばれ肩掛けするくらいの大きなものでした。ショルダーフォンを使っていた人たちというのはいわゆる当時のイノベーターでしたが、彼らは周囲から懐疑的な目で見られていましたよね。固定電話があるから、携帯電話なんて流行らないのではないか?と。
そこから30年以上経って今は子供やお年寄り含め、ほぼすべての人がスマートフォンを持つ時代になりました。ただ、価値観や生活を一変させるのに、それなりの時間はかかっています。
我々が使っているVRゴーグルは携帯電話でいえばショルダーフォンくらいの段階かな、という感覚を思っています。毎日長時間被って生活している私が言うのもなんですが、残念ながら、一般人がこれを毎日かぶって生活するというのはまだ現実的ではないと思っています。VR機器がもっと高性能化・小型化していかないと一般に浸透するのは難しいです。言ってみれば、携帯電話で言う所のショルダーフォンレベルのものを受け入れられる人たちだけが現状メタバースで生活している段階なので、私自身も今すぐにこれが浸透するとは思っていません。

福島携帯電話の例えは非常にわかりやすいです。実は1979年、日本電信電話公社が民間向けとして、世界で初めてセルラー方式での電話サービスを提供し始めましたが、当面の普及は自動車内での利用が中心になると考えられていたようです。まさか、個人一人ひとりが持つ時代がくるとは想定していなかったということです。今のメタバースとよく似ているといえるでしょう。作今の技術進歩の速度を考えると、メタバースにおいても個人が当たり前にVRゴーグルを使う時代というのはそんなに遠い未来ではないかもしれません。携帯電話の例でいうとスマートフォンにたどり着くまでに思ったほど長い時間はかかりませんでしたから、VRゴーグルやPCに関しても同様のことが言えます。先ほど、ねむさんが物理現実の経済圏をメタバースの経済圏が上回ると仰いましたが、私も同じように思います。
例えば、お金を使うときには大抵買い物に行くことが多いですが、買い物に行く効用って何だろうと考えてみると、意外とシンプルなことに気付きました。外を歩いて、街並みを見ながら買い物をするといった楽しみは最後まで残るとは思いますが、「必要なものを効率よく探したい」「いろんなものを探したい」というときには遥かにメタバースのほうが楽なのかなと、今日の話を聞いていて思います。
飲み物一つ買うにしても、その飲み物を作っている人のところに行って、他の製品との違いを直接聞くことができる世界は、物理現実の世界より楽しい買い物ができるだろうと想像します。
人間というのは、一つきっかけがあると、雪崩のように流れていってしまうもので、メタバースへの流れができれば、そちらに流れていくのではないかと予想できます。

ねむ仰る通りで、感覚的な部分は実際体験したり調査したりしないと、実感としてわからない部分です。私も100年後は先ほど言ったような世界に確実になっていると断言しますが、企業からすれば、今そこに投資する意味があるかどうかだと思います。メタバースの世界が当たり前になった時に、企業がどういう目的をもって、貢献できるのかをイメージできるかどうかで全く変わってくるのではないでしょうか。

福島つまり、今企業がやらなくてはいけないことは、メタバースが当たり前のものになった時に、自分の会社がどんな位置づけでどんなことをやっていきたいかというビジョンをきちんと考えていくということですね。

ねむはい。ですから、1年後すぐにメタバースで儲けようといった発想は、非常にリスクが大きいと思います。

福島私が約40年前に私が社会人になった時、PC-8001という日本で最初のパソコンが出たことを記憶しています。私の入社した企業、とある大手企業だったのですが、そんな大きな会社でもPC-8001というのはものすごく高級な機械で、フロアに1台置いてあって、予約制で順番に使っていました。その頃はPC-8001というのはちょっと試してみるようなものだったと思います。
ちょうどその頃、ある有名なマーケターの話を聞きました。そのマーケターの先生はライト兄弟の話をされたのを覚えています。彼らが飛行機を30m飛ばした時に、民衆のほとんどは、「これは面白い見世物を見た」と言い喜んで帰ったと。しかし、その中にいたある人物は「これで大金持ちになれる」と言い、後にアメリカで飛行機会社を設立したそうです。その時点でほとんどの人たちは飛行機を面白い見世物としか思わなかったにもかかわらず、です。
そして最後にその先生はこう付け加えました。「今のPC-8001はライト兄弟の飛行機と同じものです」と。すると当時の会社のエリート社員は爆笑しました。これが今のメタバースかなと感じています。
この先生の話を聞いて笑うのではなく、メタバースが中心になった時の時代、世界をイメージしながら、そこでこの会社は何をできるのかということが重要になります。
その点をきちんと用意しながら動いていかなくてはいけないなということが大変よくわかりました。
それから、今我々が取り組んでいるロイヤルティマーケティング、CXというものがメタバースと相性がいいということもわかり、心強く思っています。

メタバースにおける5Aカスタマージャーニー

こすも:私たち(5A Loyalty Suite)が指標とする5Aカスタマージャーニーは、メタバースにおいても活用できるのでしょうか。

福島5Aはマーケティングの中でよく使われる指標の一つで、人がブランドや商品に出会ってから使ってみて、そして、使い終わってというプロセスをカスタマージャーニーと呼びます。この中で、昔は、商品を知って、好きになって、使えば終わりだったんですが、最近はその段階は5つに段階分けされるようになったわけですね。まずは、知ること、そして次に訴求(好きになること)、そして3番目が調査です。好きになったらその中身が知りたくなりますから、その情報を取りに行きます。そして次に購買行動、利用ということになります。これまではここで終わりだったのですが、新しいカスタマージャーニーでは、最後にロイヤルが来ます。アドボケイターともいいますが、人に推奨するということですね。好きなものは人に推奨するだろうということで、この5段階に分類されています。
メタバースにおいては、直接生産者が消費者とコミュニケーションが取れるため、強力な訴求力を発揮できるのではないでしょうか。

ねむはい。メタバースで最終消費者と生産者がダイレクトにやり取りできるということは、ファンも作りやすいということに繋がります。この点は、5Aカスタマージャーニーが活きてくる部分になるかと思います。
また、移動という概念がなく、より行動がしやすいというのが一番大きなポイントなので、今後そういった事例が当たり前になっていくと思います。スーパーマーケットの野菜の「私たちが作っています!」のイメージですね。これもブランドの認知や推奨、さらには購入行動にも適している特徴かと感じています。
さらに、個人がビジネスをやりやすくなるのかなとも思いますね。先ほど話したように、1人が同時に様々なキャラクターを複数作って、同時にチャレンジすることができるので、マイクロビジネスが挑戦しやすくなります。逆にいえば、企業にとってはその性質をどう扱っていくのかは課題になるかもしれません。インターネット然り、ネットワークが広がると技術を持っている個人が一人で何でもできるようになっていきます。個人ができることが広がり、力を持つようになったときに、企業が彼らとどのように渡り合っていくのかというのは大きな課題になると思います。

福島おっしゃる通りですね。従来だと、個人が何かしようとしたときにファンドから資金調達をする必要がありましたが、メタバースでもっと気軽にリスクの少ない形で始めて、ダメだったらすぐやり直すということが可能になると、もっともっとチャレンジがしやすい世の中になる気がします。

ねむトライ&エラー、PDCAが今よりもっと速いサイクルで行われていくようになり、さらにそれが個人で回せるということですね。今まで会社を作らないと難しかったことが、個人が空いた時間にできてしまうことで、成果物のクオリティなどもけた違いに高くなっていくと思います。現実の自分では考えられないようなことにも「新しい自分」としてチャレンジしやすくなる。それがまさしく、私の考える「分人経済」というものです。
今はまだ大きな経済とは呼べませんが、いずれ当たり前になっていくのではないかと思います。

ねむさんが伝えたいメタバース像

こすも:最後に、ねむさんが伝えたいメタバース像をお伺いしてもよろしいでしょうか。

ねむ本日のお話させてもらって実感いただいたと思いますが、メタバースにいるアバターというのは、はたから見るとアニメのキャラクターと話しているような不思議な感覚かもしれませんが、私も「中の人」は血が通った普通の人間です。現実とは違う自分になっていますし、現実ではできない魔法のようなことができてしまうので、SFやファンタジーのように見えてしまうことがあるようです。
なんと話している相手に、私が本当に人間なのか確信を持てないと言われたこともあります。アニメキャラクターのような見た目なので、話しかけるのに抵抗があるという人もいます。
一見すると、非常に未来的に見えるかもしれません。しかし実際のメタバースは、人と人が直接会えたり、お話にあがったD2Cもそうですが、とても原始的な体験、人間の人間らしいところが発揮できたる空間であると思っています。テクノロジーが進んでいて人間からかけ離れた機械的な何かをイメージしがちですが、まったく逆です。実は、メタバースとは、人間がより人間らしくいられる空間で、お互いがより深く分かり会える空間だと思います。メタバースで生活している方々は私も含め、血の通った人間、一般人なので、今みなさんが生きている世界の延長線上にメタバースという未来が存在しているという感覚を持っていただけると嬉しいです。

バーチャル美少女ねむ公式noteより

バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第1回:メタバースの生活と経済圏の現状
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第2回:メタバース上でのCX戦略
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第3回:メタバースにおけるビジネス活動
バーチャル美少女ねむ氏、トランスコスモス福島常浩の対談 第4回:メタバースの今後の展望と理想的な企業活動

対談者プロフィール

メタバース文化エバンジェリスト・バーチャルYouTuber
バーチャル美少女ねむ
メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber(バーチャルYouTuber)。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献。2020年にはNHKのテレビ番組に出演し、お茶の間に「バ美肉(バーチャル美少女受肉)」の衝撃を届けた。ボイスチェンジャーの利用を公言しているにも関わらずオリジナル曲『ココロコスプレ』で歌手デビュー。作家としても活動し、著書に小説『仮想美少女シンギュラリティ』、メタバース解説本『メタバース進化論(技術評論社)』がある。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞などインタビュー掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。
2022年は文化庁や総務省にもメタバースに関する情報提供やアドバイスを行っており、東京大学で講義したり、各種学術イベントでも講演活動を行った。テレビ番組や雑誌、国際ドキュメンタリーにもゲスト出演多数。 アバター文化への貢献が認められ、キズナアイ以来史上二人めとなる一般社団法人VRMコンソーシアム「アバターアワード2022 特別功労賞」受賞。「MoguLive VTuberアワード2022」では「今年最も輝いたVTuber “7位”」に選出された。
2023年には『メタバース進化論』で「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス書部門”大賞”を受賞し、VTuber初の大賞作家となった。
(バーチャル美少女ねむ公式プロフィールより引用)

note: https://note.com/nemchan_nel
Twitter: https://twitter.com/nemchan_nel

トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員
福島常浩

1982年に東京工業大学大学院を修了。味の素株式会社にて多変量解析を用いた市場定義モデルの開発、マーケティング部門において家庭用新製品開発及び新事業開発のマーケティング責任者、コンビニエンスチェーンとの大型製販同盟の事業を担当。 その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、デジタルマーケティング責任者等を歴任。日本マーケティング協会公認マーケティングマイスター、一般社団法人市場創造学会代表理事・事務局長に携わる傍ら同志社大学で教鞭も取っている。2023年現在、トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員としてマーケティング関連の事業開発を担当。


メタバースのイメージを体験されたい方はこちらから。
https://www.transcosmos-cotra.jp/meta

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