『マーケティング5.0』新コンセプトCI-EL 第3回 クリエイティブとイノベーティブの事例紹介

インタビュー

「CI-EL(シエル)」という新しいコンセプトを解説していくシリーズ第3回。コトラーの『マーケティングX.0』シリーズの共著者であるヘルマワン・カルタジャヤ氏をお招きし、新しい起業家精神の概念である「CI-EL」について解説していきます。『マーケティング5.0』では、ヒューマニティのためのテクノロジーを扱っています。アフターコロナの時代を見据え、我々はテクノロジーの進化だけでは今後のマーケティングで勝っていくことは難しく、いかに人間とテクノロジーを共存させていくかが、今後の成功の鍵と見ています。今回はCI-ELにおける投資家精神の事例をみていきます。まずはCとIについてみていきましょう。

CI-ELにおける投資家精神

前回まで新しいコンセプトであるCI-EL(シエル)の投資家精神について紹介してきました。Creativity 創造性、Innovation イノベーション、Entrepreneurship 起業家精神、Leadership リーダーシップの4つの種類があり、2021年以降はマーケティング単体、テクノロジー面だけの進化では充分ではなく、起業家精神の掛け合わせが必要になってくると想像しています。今回はCreaitivityとInnovationの事例を見ていきます。

クリエイティブ:イーロン・マスク

イーロン・マスク氏をご存知でしょう。テスラ、スペースX、ニューラリンクの創業者で、大変、クリエイティブな方です。イーロン・マスク氏のアイデアは時としてクレイジーですが、我々には彼のようなクレイジーなクリエイターが必要なのです。

「クリエイティブな考えは、人々の不満や懸念から得ることができる」とイーロン・マスク氏は言っています。ですから、我々はお客様からのクレームを喜び、そこから着想を得るべきです。クリエイティブなアイデアは、お客さまからの苦情や不満感から創造性が生まれるのです。

現在の世界では、地球以外の他の惑星に人類が住むなどという発想は非常にクレイジーです(スペースX)。そして、テクノロジーとヒューマニティ、つまり、機械と人類の境界線をいかにあいまいにしていくか、脳にチップを埋め込むなどという考えはクレイジーと言えるでしょう(ニューラリンク)。CI-ELにおいて、イーロン・マスク氏はクリエイティブに分類されます。

イノベーティブ:リチャード・ブランソン

イノベーターの例ではリチャード・ブランソン氏を挙げたいと思います。ジャカルタで何年も前にマークプラス社がセミナーを主催した際、セミナーがはじまる前に、ブランソン氏と30分ほどお話をする機会がありました。すばらしい方です。彼はクリエイターであるのみならず、本物のイノベーターでもあります。

なぜ彼がイノベーターかというと、彼はアイデアだけでなく、常に顧客のための解決法を考えているからです。自社の解決法が競合他社のものより優れているか、また、顧客のための解決法が自社に価値を創造するか、ということを考えているのです。

そうすることで、イノベーターとしてだけでなく起業家そして最終的にはリーダーとして成長できるのです。イーロン・マスク氏もそうです。創造性と革新性は、CI-ELのELの部分である起業家、リーダーにつながっていくのです。

クリエイティブなアイデアをイノベーションに進めるには

前回第2回で取り上げた変化を促すもの「5つのドライバー」を思い出してください。これはアイデアについてのチェックのモデルで、革新的か問題解決に資するかをチェックするものでしたが、これから紹介する4Cモデル(下図)はクリエイティブからイノベーションへのスクリーニング過程を示すものです。

科学とテクノロジーが機会を作り、政治・法的、経済・ビジネス、社会的・文化的、産業・市場、これらすべての変化のことをCHANGEとまとめました。CHANGEはクリエイティブなアイデアを生み出します。しかし競合企業も同じような解決法を考えつくかもしれませんから、市場で生き残っていくには、アイデアを想像するスピードが必要ですし、アイデアが顧客にとって問題解決法となるかどうかの見極めが重要になります。これチェックする過程がこの図なのです。

CHANGEにより生まれるクリエイティブアイデアは、他の3つのC、つまり市場で勝つこと(商品と市場)、問題解決(問題と解決)、価値の創造(取得と提供)、これらをいかに統合できるか重要になってきます。なぜなら顧客は最終的になにを得てなにを捨てるのかバランスを取り商品・サービスを選択します。これは企業にとっても同様に働きます。顧客にとっての価値は、企業にとっての価値にならなければなりません。創造的なアイデアは、革新的な解決に結びつくのです。

図の中央に「D-F-V」と書いてあります。D-F-Vとは望ましいか(Desirable)、採算性があるか(Feasible)、実行可能(Viable)であるかを示しています。これらの観点から4Cが妥当であるかをチェックします。このことはクリエイティブからイノベーションへ進める過程で必要なのです。

バランス・スコアカードに戻りましょう。下段のプロダクトマーケットフィット、プロブレムソリューションフィット、ゲットギブフィット、これらは市場勝利、問題解決、価値創造となり、中段の戦略家の考える3つのC、Customer(顧客)、Competitor(競合他社)、Company(企業)へとつながります。これは、大前研一氏の「ストラテジックマインド」の考え方にインスパイアされたものですが、これらのすべてのイノベーションは利益をもたらさなくてはなりません。粗利益率、営業利益率、純利益率、これらの3つは損益計算書に記載されていますね。最終的にはどんなクリエイティブなアイデアもイノベーションを通じ利益をもたらさねばならないのです。

リチャード・ブランソンがなぜイノベーターなのかという部分でも書きましたが、アイデアだけでなく、常に顧客のための解決法を考える、解決法が競合他社のものより優れているか、またそれが自社に価値を創造するかという点をあわせて考えられれば、イノベーターとなれるのです。

CI-EL 第4回では、マーケティング5.0を実現するためのリーダーシップの実例の後半、CI-ELのELの部分である起業家、リーダーについて紹介していきます。

ヘルマワン・カルタジャヤ|Hermawan Kartajaya
MarkPlus 創業者兼CEO

インドネシアを中心に、アジアで経営コンサルティングを行っているマークプラスの創業者。アジア・マーケティング連盟名誉フェロー。英国マーケティング研究所から「マーケティングの未来を形づくった50人のリーダー」の一人として紹介されている。『ASEANマーケティング:成功企業の地域戦略とグローバル価値創造』(マグロウヒル・エデュケーション)、『コトラーのマーケティング4.0:スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版,P・コトラー、イワン・セティアワンと共著)など共著多数。

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