『マーケティング5.0』新コンセプトCI-EL 第4回 起業家とリーダーの事例紹介

インタビュー

「CI-EL(シエル)」という新しいコンセプトを解説していくシリーズ第3回。コトラーの『マーケティングX.0』シリーズの共著者であるヘルマワン・カルタジャヤ氏をお招きし、新しい起業家精神の概念である「CI-EL」について解説していきます。『マーケティング5.0』では、ヒューマニティのためのテクノロジーを扱っています。アフターコロナの時代を見据え、我々はテクノロジーの進化だけでは今後のマーケティングで勝っていくことは難しく、いかに人間とテクノロジーを共存させていくかが、今後の成功の鍵と見ています。

CI-ELにおける起業家精神とは

前回まで新しいコンセプトであるCI-EL(シエル)の起業家精神について紹介してきました。Creativity 創造性、Innovation イノベーション、Entrepreneurship 起業家精神、Leadership リーダーシップの4つの種類があり、2021年以降はマーケティング単体、テクノロジー面だけの進化では充分ではなく、起業家精神の掛け合わせが必要になってくると想像しています。今回はEnterpremeurshipとLeadershipの事例を見ていきましょう。

起業家:孫正義

クリエイティブな起業家である孫正義氏は日本人でありながら、大変グローバルな活動をされている方です。サウジアラビアに行き、航空機プロジェクトを支援しています。中国にも行きアリババにも投資ししています。孫氏はアリババが大企業になるという起業家としての勘が働きました。14億の人口を擁する中国において、ジャック・マー氏が率いるアリババがフェイスブックとはまた違った企業になる、こういったことを感じ取ったのです。孫氏はアリババに投資しているのみならず、テクノロジーにも精通しています。さまざまな投資をしており中には失敗もあります。しかし、多くは大変成功しているのです。すなわち、孫氏は本物の起業家であるということなのです。

リーダーシップ:ジャック・マー

CI-ELのクリエイター、イノベーター、起業家では例として1名ずつ挙げてきました。そして最後はリーダーを1名選びます。私はジャック・マー氏を取り上げたいと思います。ジャック・マー氏はEQ(Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数)もIQ(Intelligence Quotient:知能指数)もともに、とても重要であると考えている一方で、IQ、EQともにテクノロジーの進化により人間から機械へ取って代わられると予想もしています。IQは今後、機械の進化により取って代わられるでしょうし、またクリエイター、イノベーター、起業家、リーダーのEQについても、いつしか起こるであろう機械革命によって取って代わられると予想されるのです。

しかし、ジャック・マー氏は人には愛の指数(Social Intelligence Quotient:社会的指数)があるとも言っています。とてもいい考えです。SQというのは本物の愛のことです。私はIBMの理想的な伝統的なリーダーシップの考え方のモデルであるCTEMLが気に入っています。リーダーは変化、夢、エンパワーメント、つまりリーダーは常にスタッフに影響を与えています。スタッフが間違いを起こした際は、その責任はリーダーが取りますが、成功した際はそのスタッフの手柄とします。リーダーはみんなのモデルになるのです。本物のリーダーは愛を用います。

しかし、経営はPOACです。計画(Planning)、組織する(Organizing)、実際に(ACtually)考え行動するのです。第1回から言っていますが、いかにCI-ELとPI-PMを統合させるかが、マーケティング5.0の時代には重要となってきます。みなさんもCI-ELの考え方をぜひ楽しんでください。

ウィズコロナ、アフターコロナの時代のマーケティング

フィリップ・コトラー教授と共に過去22年間、数多くの著書の中で私が使用しているベーシックなマーケティングモデルは、変化のドライバーを使った5D(5つのドライバー:科学とテクノロジー、政治・法的、経済・ビジネス、社会的・文化的、産業・市場)と、4C(CHANGE、COMPETITOR、CUSTOMER、COMPANY)です。それぞれ第2回、第3回で説明しています。マーケティングは、売るためだけのもの、コミュニケーションのためだけのものではありません。競争力を身につけた5D、4Cの後の世界では、カスタマーマネジメントを考えていく必要があります。なぜならば、顧客行動は常に変化しており、これに対応していく必要があるからです。商品、ブランドも管理していく必要があります。

マーケティングとはPDBである

Pはポジショニング、Dはディファレンシエーション(差別化)、Bはブランドです。マーティングは、とてもシンプルなのです。このようなシンプルなものを、複雑化させないでください。顧客を大切にするのであれば、顧客動向を管理してください。商品は静的なものであってはなりません。商品は顧客にとって解決法であるべきであり、顧客のニーズに答えるのはもちろん、社会が求めるもの、次の社会が求めているものはなにかに応える必要があるのです。

ブランドを確立させるためには、新しいブランド、新しいポジショニングあるいは、新たな差別化が必要かもしれません。リポジショニング、再差別化、リブランディング、新たなアイデンティティ、新たなインテグリティ、新たなイメージなどが必要でしょう。私はブランドのイメージというものは、アイデンティティとインテグリティの結果であると考えています。

ポジショニングとは御社のアイデンティティです。競合他社との違いを感じてもらうには、自社のポジショニングを行う勇気が必要です。自社を差別化することにより、ブランドのポジショ二ングを行う手助けになります。自社は他社とどう違い、なにが特別なのか、マーケティングは、他社よりも優れること、あるいはベストな解決法を見出すことではなく、他社とどのように差別化を図れるかということです。イメージがブランドとなります。イメージはアイデンティティの結果です。

次回はCI-EL最終回です。マーケティング5.0時代のリーダーシップについて、CI-ELの観点から解説していきます。

ヘルマワン・カルタジャヤ|Hermawan Kartajaya
MarkPlus 創業者兼CEO

インドネシアを中心に、アジアで経営コンサルティングを行っているマークプラスの創業者。アジア・マーケティング連盟名誉フェロー。英国マーケティング研究所から「マーケティングの未来を形づくった50人のリーダー」の一人として紹介されている。『ASEANマーケティング:成功企業の地域戦略とグローバル価値創造』(マグロウヒル・エデュケーション)、『コトラーのマーケティング4.0:スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版,P・コトラー、イワン・セティアワンと共著)など共著多数。

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