カスタマージャーニーとは 福島常浩が解説するCX時代のロイヤルティマーケティング 第8回

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カスタマージャーニーとは、顧客と商品やサービス、ブランドとの接触の歴史です。顧客はひとつの商品やサービス、ブランドに対してさまざまな感情や印象を抱きますが、それはすぐにつくられたものばかりではありません。長い年月の中で積み重なってつくられてきたものです。なかには顧客本人が認識していないような潜在的な印象やイメージなども含まれます。それらを定義して、ひとつのかたちにしたものがカスタマージャーニーです。もっとも一般的なものを基本カスタマージャーニーといい、現在では5Aとして定義されています。

複雑化する現代のカスタマージャーニー

カスタマージャーニーは、最も古くは生活者の情報処理プロセスといわれていました。AIDAは、Attention、Interest、Desire、Actionの頭文字からなる略語ですが、これは顧客の情報処理そのものなのです。それが消費者行動といわれるようになり、最近ではカスタマージャーニーといわれるようになっています。われわれはカスタマージャーニーと自然に呼んでいますが、マーケティングの世界における時代の変遷によって呼ばれ方が変わってきているわけです。

じつは、昔のマーケティングではカスタマージャーニーをとてもシンプルに考えていました。企業がマス広告で顧客に一方的にメッセージを伝える。そして顧客がそれを受け取り、企業を好きになり、商品を探し出して購入する。このように基本カスタマージャーニーとほとんど変わらないようなシンプルなカスタマージャーニーが前提となって語られてきたのです。顧客と企業の接点は現在のように多くはなく、単純でシンプルなカスタマージャーニーで十分だったのです。企業は自社の商品やサービス、ブランドに関する情報を比較的簡単にコントロールすることができました。

しかしインターネットの登場とともに、この情報の流れ方が大きく変化しました。たとえば企業が情報発信をします。それを受け取った顧客はその情報をSNSで発信するかもしれませんし、クチコミサイトに投稿するかもしれません。そしてそれを受け取った別の人はそれをさらに周囲に発信するかもしれません。また別の人はその商品を好きになり、実際に購入しようとするかもしれません。また別の人は情報の確からしさを調査するためにクチコミサイトで検索するかもしれません。また、好きになったけれどいまは実際には買わずにECサイトのほしいものリストに登録しておく人もいるかもしれません。

このようにインターネットの登場によって顧客はかつてのような受動的な存在ではなくなりました。顧客が能動的に情報の発信までできる世の中になったことで、顧客と商品やサービス、ブランドとの接点は非常に多様に、そして複雑になっているのです。このことはカスタマージャーニーにも多大な影響を与えています。SNSやブログ、メールなどのデジタルメディアによる顧客の情報の発信や受信を一連の行為として受け止めていかなければ現代のカスタマージャー二ーを正しく理解することはできないのです。

昔のマーケティングは今振り返ると、とても楽なものでした。それはひとえにカスタマージャーニーがシンプルだったからです。それに比べて現代のカスタマージャーニーはそれ自体が非常に多様化、複雑化している時代です。このカスタマージャーニーを通じて、顧客が商品やサービス、ブランドに対して抱く意識や感情を最適化していくこと、つまりロイヤルティマーケティングがますます重要になってきているといえます。

顧客ペルソナを加味したカスタマージャーニー

現代の基本カスタマージャーニーは5Aですが、カスタマージャーニーというのは顧客が通ってくる道筋=道程ですので、実に他種多様なものが存在します。それを目的に合わせて使い分けることが重要です。たとえば製薬会社ではペイシェントジャーニーといいます。これは顧客が病気になってから亡くなるまでの道筋を表現するものです。

カスタマージャーニーと一緒に考えるべき重要なことに、顧客のペルソナというものがあります。一般的にペルソナマーケティングといわれる考え方はカスタマージャーニーと非常に密接な関係にありますし、カスタマージャーニーそのものがペルソナに依存するものです。いいかえれば、ペルソナ別にカスタマージャーニーは異なるといえます。

たとえば、顧客がボールペンを選ぶ際のカスタマージャーニーについて考えてみます。筆記用具のマニアとそうでない一般の人、つまり単に字が書ければよいという人では、このときのカスタマージャーニーはまるで違います。これはペルソナの違いによってカスターマージャーも大きく違ってくることを理解するのによい例なのですが、意外とこの点を見過ごしてしまうことが多くあります。

カスタマージャーニーを語る際には裏側にペルソナの過程が隠れていることを理解することが重要です。基本カスタマージャーニーはあくまでマクロ的概念であるため、平均的な部分を意識して表現したり議論したりします。しかし厳密なカスタマージャーニーを考える際には、こうした違いに注意しなければなりません。これは実務的な観点からの重要なアドバイスとなります。


福島常浩が御社のマーケティングをディレクションいたします

トランスコスモスでは、フィリップ・コトラーの提唱する5Aコンセプトに沿ってマーケティング戦略提案をいたします。実際のご提案に際しては、当記事の解説者である福島常浩がデジタル時代に最適化したロイヤルティマーケティングをサポート。まずは御社のお悩みをお聞かせください。

トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員
公益社団法人日本マーケティング協会 理事
福島常浩
東京工業大学大学院修了後、味の素株式会社に入社。その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、マーケティング責任者等を歴任。専門分野は、新事業・新製品開発、ブランド論、医療ビジネス、ロイヤルティマーケティング。トランスコスモスではマーケティング関連の事業開発を担当し、書籍 『コトラーのマーケティング4.0』 で紹介された5A診断を日本で独占的に提供している。

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