5AとNPSの違いとは 福島常浩が解説するCX時代のロイヤルティマーケティング 第7回

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商品やブランドのロイヤルティを測定する指標として、日本ではNPSが広く知られています。みなさんのなかにもNPSを使っているという人がいるのではないでしょうか。しかしロイヤルティを測る指標にはさまざまなものがあります。このサイトで説明している5Aもそのひとつです。ではコトラーが提唱する5Aと、ベインが提唱するNPSは、どのように異なるのでしょうか。今回は両者の違いを説明しながら、それぞれの指標がどのような場合に適しているのか考えていきたいと思います。

ニーズの異なる複数セグメントのロイヤルティ測定は5A

コトラーの提唱する5Aとベインの提唱するNPSはいずれもロイヤルティを測定する指標という点では同じです。しかし両者はいくつかの点で大きく異なります。当然ですが私は5Aをみなさんにおすすめしたいと思います。以前『コトラーのマーケティング3.0、4.0、5.0』の共著者であるイワン・セティアワン氏が、弊社の講演会でこのことに触れて話したことがあります。これはコトラーの考えでもあります。その話は以下の通りです。

『アメリカでは、世界的に有名なあるハンバーガーチェーンを他人にすすめたい人(推奨者)が30%、すすめたくない人(非推奨者)が30%います。すなわちそのチェーンのロイヤルティはゼロということでしょうか。違います。つまりニーズの異なる複数のセグメントが存在する市場では、推奨者から非推奨者を減算するロイヤルティの測り方は不適当だ。』

私もそう思います。つまり市場がマスで、同じようなニーズから構成されているとしたら、NPSの測り方でよいかもしれません。褒めている人(プラス)と悪くいう人(マイナス)の数を単純に足し算すればよいのです。しかし最近では顧客のニーズはとても複雑で多様なものとなっていることが多く、その場合に「推奨したくない」という意見を、指標に入れる必要はないと思います。特に日本では、非推奨者はあまり他人に自分の意見を押し付けないため、あまり影響力はないでしょう。黙って使わないだけです。

NPSが有効な場合と適さない場合とは

たとえば自社の従業員満足度を測る際はNPSで適切に測定できるでしょう。どの従業員についても一様にすすめてほしいわけですから、むしろセグメントをきってはいけないのです。国内は会社に忠誠心を持ってほしいけれど、グローバルは持ってほしくないということはないですね。

先述のハンバーガーチェーンの例でいえば、日本はあまり階層がない社会であるためにイメージがわきにくいかもしれませんが、海外では安いハンバーガーチェーンはあくまで貧民の食べ物とされています。一定以上の階層の人が行くお店ではないということです。韓国でもその傾向があり、子供のころから入ってはいけない店であると教育されているのです。反対にスターバックスは階層の高い人が多いお店とされていますが、日本ではそういった意識を持つ人は少ないのではないでしょうか。

海外では階層がはっきりしていて、階層によってそもそも利用するお店自体が異なるのです。こういった社会においては、NPSでは適切なロイヤルティを測定することができません。セグメントがある場合は推奨者と非推奨者を減算してはいけないのです。アメリカではマクドナルドの利用者層の中心は低所得層の高齢者といわれています。この場合、市場全体ではなく、低所得層の高齢者に絞ってロイヤルティを測定するべきです。彼らが喜んで利用していれば、それはロイヤルティとして評価しなければなりません。

商品やブランドに関係のない人は「推奨したくない」

商品やブランドに対するロイヤルティを測るとき、その商品やブランドに関係のない人が推奨したくないのは当たり前であることを理解するべきです。例えば生理用品のことを男性に問うても、彼らは推奨したくないというでしょう。しかしそれはその製品に対して否定的な意見を持っているわけではありません。ただ単に自分とは関係がないから推奨したくないといっているだけです。たとえば男女100人に特定の生理用品を推奨したいかどうかをNPSで調査して、男性50人がいた場合、彼らは推奨したくないと答えるため大きなマイナス要因になってしまうわけです。これは本来のロイヤルティとして間違っていることは明らかでしょう。

同じロイヤルティでもNPSと5Aは一致しない

弊社ではおもしろい調査を行っています。NPSと5Aが一致するか、継続的に測定しています。この調査の結果はまったく一致しません。

「推奨したい」というのがNPSです。「推奨したことがある」というのが5Aです。「推奨したくて推奨したことがある」人は本当のファンです。ロイヤルユーザーであり推奨者です。5Aが「推奨をする」という「行動」について聞いている一方、NPSは「推奨したいか」どうかという「意識」をたずねているのです。

また「推奨したくなくて推奨していない」人もいます。推奨していないけれどこれからしたい人、そして推奨したことはあるけれどもうしたくない人という人もいます。長年使っていていやな部分が増えてきた人や、いつか推奨してみたい人などさまざまに存在します。それぞれの特徴をみて、市場に応じて解釈を行う必要があります。弊社ではこのような分析を研究的に行っています。

こうした違いは大きいですが、なぜ5AがNPSほどに普及しないのかというと、決定的な違いは5Aのオリジナル指標が「非公開」だからです。NPSはオープンイノベーションです。指標を公開して多くの人にどんどん使ってもらい、そしてどんどん研究してもらうわけです。本当は5Aもこれをやりたいのです。

NPSと5Aの違いを理解していただけたでしょうか。NPSほどはまだまだ普及はしていない5Aですが、推奨したことがある人をしっかりと作っていかなければならない現在のマーケティング環境においてはどちらが適しているでしょうか。5Aでのロイヤルティ測定についてもご検討ください。


福島常浩が御社のマーケティングをディレクションいたします

トランスコスモスでは、フィリップ・コトラーの提唱する5Aコンセプトに沿ってマーケティング戦略提案をいたします。実際のご提案に際しては、当記事の解説者である福島常浩がデジタル時代に最適化したロイヤルティマーケティングをサポート。まずは御社のお悩みをお聞かせください。

トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員
公益社団法人日本マーケティング協会 理事
福島常浩
東京工業大学大学院修了後、味の素株式会社に入社。その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、マーケティング責任者等を歴任。専門分野は、新事業・新製品開発、ブランド論、医療ビジネス、ロイヤルティマーケティング。トランスコスモスではマーケティング関連の事業開発を担当し、書籍 『コトラーのマーケティング4.0』 で紹介された5A診断を日本で独占的に提供している。

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