コトラー『マーケティング5.0』まとめ第5回 デジタル化への準備度が高い組織(12回シリーズ)

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トランスコスモス(以下当社)の“5ALoyalty診断”サービスの誕生の契機にもなった『マーケティング4.0』の発売から5年。シリーズ最新著『マーケティング5.0』が2022年4月20日に日本語版が発売されました。神様コトラーの緊急提言と題されたマーケティング5.0では、デジタル社会における世代間や社会の課題とマーケティング・テクノロジー活用の新戦術について語られます。記事では章ごとに概要をまとめて分かりやすくお伝えします。
第5回は「デジタル化への準備度が高い組織」です。

デジタル化の加速要因

IoTやSNSの普及によって、2010年以降これまで以上にデジタル変革が行われてきました。一方で多数の顧客や企業においては、地域や世代の差にや従来の買い方や受け方の慣性は残っており、デジタル化を先延ばしにしていました。デジタル化を選択するという自由もあれば、デジタル化を選択しないという自由も私たちにはあったからです。

しかし、COVID-19の世界的なパンデミックによって、ほとんどの顧客や企業は、あらゆる商品やサービスのデジタル化を強制的に迫られることになりました。顧客にとっては、私たち一人ひとりがそうであったように、ステイホームやロックダウン、移動制限が長期にわたって続いたことで、オンライン上での行動が広がりました。在宅勤務やオンラインショッピング、フードデリバリーはもちろんのこと、リモートでの診療まで行われるようになったのです。新型コロナウイルス感染症拡大前の生活からは想像できないことでしたが、それでも人々はあらゆるデジタル化に適応し、そして今後以前の状態に完全に戻ることはないといえるでしょう。

ただし、一言にデジタル化といっても顧客や企業にはそれぞれの受け入れ体制には差がありました。コロナ禍においてスムーズにデジタル化を進めることができた、あるいはすでにデジタル化に移行していた業界もあれば、準備が不足していた業界もあったことが事実です。日本でも感染拡大当初は、さまざまな業界やサービスで慌ただしい変化や対応の遅れが目立っていた事象があったことは記憶している方も多いかもしれません。

『マーケティング5.0』まとめ第1回記事はこちらから

デジタル化の準備度評価

『マーケティング5.0』では、6つの産業部門のデジタル化への準備度を示す四象限マトリクスを以下のような図で説明しています。

『マーケティング5.0』より当社にて編集

各産業部門のポジションはアメリカにおける現在の(当著の出版は2021年)に状況に基づいているため、市場が進化する中でもちろん変わる可能性があるとされていますが、それぞれの象限にマッピングすることによって自社のデジタル化戦略の能力を評価することができます。

  • 「オリジン」象限:パンデミックでもっとも深刻な打撃を受けている産業。デジタルへの準備があまり出来ていなかった産業の企業
  • 「オンワード」象限:デジタル化に投資してきたものの、顧客側の移行に苦労している産業
  • 「オーガニック」象限:物理的なタッチポイントに大きく依存して製品・サービスを提供する産業
  • 「オムニ」象限:企業が最終的に到達したいと思う象限

本章ではそれぞれの象限の産業の特徴と自社評価を行う際の評価項目について詳細に解説されていますので、気になる方は一読してみることをお勧めします。

顧客をデジタル・チャネルに移行させるための戦略

「オンワード」象限に入る小売業界が顧客のデジタル化への移行に苦心していることを述べましたが、それでは企業は顧客にデジタルを受け入れてもらうためにどんなことをすれば良いのでしょうか。オンラインにおけるCXを通じてよりよい価値を提供する必要があります。

1.デジタル化を促すインセンティブを与える

デジタルへの移行を促すために、正のインセンティブや負のインセンティブを与えるというのもひとつのやり方です。正のインセンティブは、オンラインショッピングでのキャッシュバックや割引などで、即時の満足を与えられるかもしれません。負のインセンティブとしては、オフラインの選択を行うと別料金がかかる、といった仕組みです。近年日本では、いくつかのメガバンクが紙の通帳を発行すると手数料がかかるという方法を採用しました。このことは「オムニ」象限にある金融サービスならではの対応といえるでしょう。

2.フラストレーション・ポイントにデジタルで対処する

オフラインでのタッチポイントにおける弱点である、長い待ち時間や行列をカバーする取り組みも重要です。迅速で簡単な解決策を求める顧客に対して、デジタルはプロセスの一部を引き受けることができます。たとえば日本のアパレル企業のバロックジャパンは、店舗での在庫がない商品を買いたい顧客に対して、アプリを使って翌日には配送できるシステムを取り入れています。従来、お客様に待っていただく間に他店舗に電話をして、在庫確認を行ったうえで配送してもらい、届いた商品をお客様に配送するという数日かかる一連のプロセスを簡略化できています。

3.望ましい物理的インタラクションをデジタルで構築しなおす

人対人のやり取りは依然として価値をもたらしますが、企業はデジタルによるコミュニケーションを活用することができます。たとえば、金融サービスのビデオバンキングや遠隔医療のバーチャル診療があげられます。当社でも、各地のコールセンターではAI技術を用いて電話応対したスタッフと顧客の単語を聞き取り、その場で役立つ情報をスタッフの画面上に自動で表示する機能を活用しています。

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まとめ

今回の記事では、デジタル化の加速要因と準備度評価、顧客をデジタル・チャネルに移行させるための戦略について解説しました。しかしすべての企業に使える戦略はありませんし、デジタル化への移行は顧客側だけの問題とは限りません。業界や部門ごとに異なるデジタル成熟度を見極め、自社の評価を正しく行いましょう。そして準備度評価の結果によって、企業はそれぞれ異なる戦略を策定して実行する必要があります。


※本記事は『コトラーのマーケティング5.0』より弊社にて編集・引用して解説しています

『マーケティング5.0』日本語版まとめ第1回 マーケティング5.0へようこそ
『マーケティング5.0』日本語版まとめ第2回 世代間ギャップ
『マーケティング5.0』日本語版まとめ第3回 富の二極化
『マーケティング5.0』日本語版まとめ第4回 デジタル・ディバイド
『マーケティング5.0』まとめ第5回 デジタル化への準備度が高い組織

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