【マーケティング5.0】トランスメディアストーリーテリングとは

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デジタル社会の今日、顧客は常にオンラインとオフラインを行き来するようになりました。DX時代のマーケティングは、顧客にとってそのとき最も便利な方法で違和感なくシームレスな体験を提供することが重要です。従来はチャネルを区別してメディアごとに施策を行うことが一般的でしたが、チャネルを区別することは企業都合であって、顧客にとって意味はありません。いかにチャネルを融合させ、自社独自の体験や価値を提供できるかがこれからのマーケティングの成功の鍵を握っています。今回は顧客体験を設計していく際に重要な概念のひとつ、トランスメディアストーリーテリングについて理解を深めたいと思います。

トランスメディアストーリーテリングとは

あえてストーリーを断片化することで、顧客に魅力的な物語体験を提供する
トランスメディアストーリーテリングはコンテンツの提供手法のひとつで、ある世界観において、その世界観に整合性のある複数の物語を複数のメディアで展開することにより、次第に物語の全貌を明らかにしていく手法のことです。情報を断片化することで、顧客の興味関心を上手に引き寄せながら自社の提供価値やプロダクトの魅力などを顧客に印象付けることを目指します。英語表記のTransmedia Storytellingの頭文字をとって、TMSと略されます。

トランスメディアストーリーテリングを取り入れると、顧客はさまざまなメディアに接触して少しずつ情報を獲得していきます。物語に参加する、手間をかけて情報を取得する、といったゲーム的要素がプラスされながら物語がパズルのように完成していくため、より深い物語体験を実現できるのです。メディアの特性や顧客の行動パターンに応じてうまく展開できれば、単一メディアで一気に展開する場合に比べ、より重層的で立体的な物語性を生み出せるのが大きな特徴です。

複数のメディアを用いる手法にはメディアミックスやクロスメディアなどもありますが、トランスメディアはこれらとは本質的に異なります。メディアミックスなどがあくまでメディアを区別したうえで物語やコンテンツを展開するのに対し、トランスメディアはそもそもチャネルを区別しません。はじめからメディア全体をひとつの空間としてとらえ、どの情報をどのメディアに配置したら物語を効果的に展開できるかを考えていきます。

TMSを取り入れるメリット

顧客を物語の世界観に引き込み、虜にする
トランスメディアストーリーテリングはもともとコンテンツ産業で生まれた考え方で、「情報は一度に与えられるよりも、断片化されているものを少しずつ繋ぎ合わせていくほうが物語のおもしろさにつながる」という思想が根底にあります。

映画やゲームは最初からすべての情報を与えません。少しずつ与え、ときには顧客自身の力によって情報を獲得するように動機付け、最終的に物語が完成するように構成します。なぜならば謎が解けた、そういうことだったのか、といった感情は人間にとって大きな達成感や喜びにつながるからです。顧客が持っている好奇心を上手にくすぐり、どんどん物語の世界観に引き込むことができれば、顧客はその世界観の虜になり離れられなくなるということです。

人間は元々不確実な世界を生きています。したがって本来人間が獲得する情報は不連続なものであり、人間は断片的な情報を無意識的に繋ぎ合わせて整合性のある物語として組み立てられる能力を持っています。また受動的に得た情報よりも能動的に獲得した情報の方が脳に定着しやすいことがわかっています。こうした人間の性質をうまく活用しようとするのがトランスメディアストーリーテリングなのです。

世界中で熱狂的なファンを持つ「スター・ウォーズ」や「マーベル」シリーズは映画をはじめアニメ、ゲーム、小説などさまざまなメディアの物語がひとつの世界観を形成しています。近年話題となった「鬼滅の刃」シリーズも同様です。主人公・煉獄はテレビアニメでは目立たない存在でしたが、映画の入場者特典や雑誌の集中連載などを活用し世界観を拡張したことで、キャラクターに対する理解が深まり、多くの感動を誘うことに成功しました。最近ではNetflixやDisney+などの動画配信サービスの戦略的コンテンツの多くもこの手法が取り入れられています。

TMSをマーケティングに活用

企業が発信する世界観を顧客と共有し、顧客を巻き込んで物語を展開する
トランスメディアストーリーテリングはコンテンツ産業のみならず企業のマーケティングにも有効です。情報化・コモディティ化した現代ではマーケティングにも物語性が求められるようになっています。顧客の共感を呼ぶ世界観をつくり、付加価値のある体験を提供できれば顧客との間に深いつながりが生まれます。

こうした認識が浸透したことでさまざまな企業が物語性のあるキャンペーンを打ち出すようになりましたが、複数のメディアを活用していても同じような内容の発信に終始しているケースがほとんどです。物語をより効果的に展開するために、ぜひトランスメディアストーリーテリングを取り入れてみましょう。情報を小出しにして、顧客が自分なりの解釈を加えながら能動的に物語を組み立てられるような「余白」のある物語作りが大きな差別化要素になります。物語を断片化し、顧客の思考や行動にうまく作用するように複数のメディアに分散させましょう。そうすることでより深い世界観を作り上げることができ、顧客ロイヤリティの向上が期待できます。

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